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                 持続可能なまちづくり

10月11日 PJ80セミナーin大阪「わたしたちのめざす“持続可能な”未来に向けた『まちづくり』への15取組み」を開催しました

10月11日、わたしたちのめざす“持続可能な”未来に向けた「まちづくり」への取組み in 大阪 を開催、SDGs(持続可能な開発目標)というキーワードを耳にする機会が増えてきました。

クラブヴォーバンは2008年に設立し、子どもや孫の世代までも豊かに暮らしていけるために、低炭素型の「持続可能なまちづくり」に取り組んでいる専門家たちが集う“場(サロン)“です。第一線で活躍しているメンバーや仲間たちが東京・大阪で一堂に会し、最新の取組みやトピックについて発表しました。

 

 

 まず代表理事の早田宏徳から挨拶。2008年から低炭素型社会に向けて、PJ80(プロジェクト‘90年比CO2マイナス80%。当初はPJ25)セミナーを開催してきました。最近グレタさんからはじまった世界中の若者の取り組みについて耳にすることも多いですが、私は10年以上前に、村上にドイツを案内してもらって(環境への取組みに)感動して、日本を変革したいと思い、クラブヴォーバンを始めています。すでに10月ですが、この週末には過去最大級レベルの台風が日本に接近しています。これは地球温暖化、つまり海水温の上昇が原因といえるでしょう。今回のセミナーでの話は、聴いてインプットしただけで満足するのではなく、皆さんどんどんとアウトプットもして社会を変えていきましょう。

 

 

最初に、Tサポート代表の村上稔氏より「地域を元気にするビジネス 買い物難民対策〜インバウンド」について。徳島県は人口73万人で19年連続人口が減少しています。今は毎年7千人もの人口が流出しています。棚田を続けている高齢者ももう自分の代で終わりという人が多く、どんどん田舎の暮らしや風景が喪われています。

 

人が暮らせる3条件 ①食料がある(食べるものを買える) ②安心して暮らせる(仕事・家・病院・見守り) ③心豊かに暮らせる(教育・文化芸術) この3つを実現できるビジネスということで、徳島県で「移動スーパー・とくし丸」と「うずしおゲストハウス」を経営しています。農水省の推計では「買い物難民」の推計が825万人、高齢化が進んでいるので数年以内に1000万人を超える勢いだそうです。しかし今年には、徳島新聞で“移動スーパー「とくし丸」が県内全市町村カバーへ”という記事が掲載さえました。現在、県内24全市町村を28台のとくし丸が回っており、県内の買い物難民問題を90%以上解決していると自負しています。

 

また総務省調査では、買い物難民対策事業の7割が赤字という結果だったのに対し、とくし丸は販売パートナーさん全車で黒字。とくし丸の事業は、「本部機能」「オーナー経営者である販売パートナー」「商品供給基地である地域スーパー」「商品価格に+10円を上乗せして買い物をするお客様」の4者の協力があってこそ、経営が成立しています。とくし丸は ①買い物支援 ②高齢者の域外づくり(ふれあい・買い物の愉しみ) ③見守り ④地域コミュニティの活性化 ⑤大手と闘う地元スーパーの応援 ⑥行政予算の削減 ⑥個人の創業支援 ⑦CO2排出削減 などの社会的な課題の解決に寄与しています。

 

話は変わりますが、鳴門には、うず潮・四国八十八霊場の第一番札所・大塚国際美術館・鳴門の阿波踊りなどの観光資源があります。ここに古い民宿をクラウドファウンディングで資金を集めてリノベーションし、ゲストハウスを開始しています。開業2年半で宿泊施設稼働率の低い徳島において、今では稼働率68%になり、「田舎に残る」⇒「田舎でこそ儲かる」ビジネスにしていくために様々な工夫をしているところです。

 

 

次にsonraku代表の井筒耕平氏より、「温浴施設のリノベーションを拠点とした地域イノベーションづくり」についてお話がありました。会社のビジョンは「成長型社会の次の時代の幸せ総量を増やすこと」、ミッションは「成長型社会から成熟社会への移行期に、取り残された日本の資源を再生すること」です。

 

西粟倉村の人口は1480人で、林野率は95%。山の管理でまず大事なことは、「自分の山がいくらになるのかわからない」という人が多いので、ドローンなどを飛ばし、樹齢や樹種や本数などから、大体いくら、というのを算定することからはじまります。それが西粟倉村ではできてきているので、三井住友信託銀行との森林保全もできました。今の西粟倉村は新築ラッシュ。役場の建て直しがあったり、廃校利用でベンチャー企業が入り、若い移住者が増えています。

 

村のビジョンは「100年の森構想」と「ローカルベンチャー創造」です。西粟倉村の役場の気風は、NPOやベンチャー的なスピード感や社会課題への意識があり、住民・行政・移住者がフラットなのが特徴です。西粟倉ローカルベンチャーの特徴は、林業・木材系とサービス系が主で、「こだわらない」、そして「結果を出すこと」です。過去13年で33社、直近3年で18社が起業しています。´08年に1億円だった林業における売上高は、2018年には8億円になりました。15歳未満の子どもの人口も増加しています。

 

そんな状況の中でのsonraku事業としては西粟倉村での ①岡山・西粟倉の木質バイオマスを軸とした、地域エネルギーコンサルティング ②遊休施設リノベ事業(温浴施設/ゲストハウスの運営含む) ③香川・豊島での孤児院の遊休施設をリノベしたゲストハウス運営 をしています。今後の課題は、「地域の総合力を上げていくこと」「断熱気密リノベ」「労働生産性&顧客満足度&従業員満足度の向上」となっています。

 

 

CV代表の村上敦からは、「温浴施設における省エネの取組の可能性」 について。一般的に日本の温浴施設では、ドイツでは新設の禁止となるような設備効率の悪いものが多数で構成されています。新品のボイラー室でも、その中を詳しく見てみると、蓄熱タンク/貯湯槽は断熱不足だし、温度管理も的確に行われておらず、循環ポンプもインバーター制御のないものばかり。問題点をまとめてみると

① 熱供給に置いて非常に重要なバッファー、密閉型で、断熱型の蓄熱タンク設置によって過剰な熱源出力の配備を避けるという思想が欠如しています。家庭における瞬間湯沸かし器は、熱を貯めないのでロスもなく省エネ型だが、その設備の考え方をそのまま巨大化しただけなのが日本の温浴施設の設備の特徴です。また、ピーク時の湯切れを恐れるばかり、巨大・過剰な貯湯槽が設置されているものの、そこから熱が逃げたり、温度管理をしたりという発想はほぼなく、「湯切れしなければOK」という荒っぽい考え方で設計されていないものがほとんど。

② 温浴施設では非常に重要な熱交換器の活用方法において、根本的な省エネ的な思想が欠如されており、また循環ポンプの設置設計における省エネの思想も欠如しています。70~80年代に東欧州で使われていたかのようなバカでかいアナログ使用の設備が、未だに日本では新たに設置され、常に「大は小を兼ねる」的に使われている。

③ 循環ポンプにおいて省エネが可能であるという考えが頭からありません。ドイツでは、2000年代前半からインバーター制御装置のない循環ポンプの新設はほぼ禁止されています。循環ポンプはWILO社とGrundfos社が世界市場を二分して独占している状況です。ドイツで義務となっているインバーター自動制御装置付きの循環ポンプの初期投資額は、制御装置がないものの2~3倍しますが、電力消費量は約1/10で済みます。

 

 

次に地域政策デザインオフィスの田中信一郎氏より「老朽化した公共建築、温浴施設等の行方」について。1970年代にたくさん建てられた公共建築が築50年を迎え、老朽化が問題になっています。水を大量に使用する公共施設としては、学校プール、市民プール、福祉施設、公営浴場・温泉、公営住宅などたくさんありますが、それぞれの施設が縦割り管理で、“水の大量使用施設”という観点で把握&施設管理されていません。同時に管理責任者である校長先生や施設長は、“施設管理のプロ・専門家”でもありません。

 

水を大量に使う施設は、他の施設に比べ建設コストも、ランニングコストも割高になるが、建築ノウハウが縦割りで、同じ自治体内でも知見が共有されていません。また、施設運用費の管理についても、費用の推移から異常ポイント(漏水)などを分析するような把握が定量的に、制度として行われていないのが現状です。稼働状況も、夏だけ、日中だけ、休日だけ、などまちまちです。全小中学校に屋外プールがあるよりも、地域に大きな通年で利用できる高品質な屋内温水市民プールがあり、水泳授業の時だけバスなどで利用しに行く方が子どもや市民が喜ぶのでは?という検討なども行われていません。公営住宅においても、戸別に給湯器を設置するより、集中型の熱供給システムを設置する方がランニングコストも安いはずですが、そのような検討はされません。

 

人口減の今後を踏まえ、公共施設の更新時には、まず何より先に、①集約・統合 ②稼働率の向上 ③建物・配管の断熱化・湿度管理・配管シンプル設計の徹底 ④再エネ・節水設備の活用 ⑤外見はシンプルにしても機能をケチらない を考えることが大切です。2014年には、石油・石炭・天然ガス代として日本は海外に27.6兆円ものお金を支払いました。海外に出ている化石エネルギー費用を、どうやって地域に回し地域経済を豊かにするか。パリ協定もあり、2050年以降はゼロエネルギーの建物が世の中のスタンダードでなければならなくなります。これから設計する公共施設は、最低50年以上使う想定が現実的ですから、2050年にゼロエネで利用されることを見越して建築する必要がありますが、多くの自治体、民間の水を大量に消費する施設では、そのような観点がないまま更新が続いて行きそうで、それでは将来、問題は大きくなるばかりでしょう。

 

 

次に、松尾設計室代表の松尾和也氏より「宿泊施設ですべきこと、出来ること」について。どこの施設運営も、利益率は改善したい、という話があり相談に乗っています。人件費には手を付けても、光熱費の負担には気づいていないか諦めている経営者が多いのが実情です。3年前、関西のある火力発電所に5日ごとに運ばれるLNGタンクを積んだ船を見学しましたが、その積み荷がいくらになるのかと聞くと、たった1隻分でLNGが40億円分だそうです! おおよそ、全国で毎年160隻くらい来ていると推測されていますが、この対価が海外に流れて行っているわけです。

 

私がドイツに行ってよく思うのは、日本人は「火力資源なし × 省エネ観念なし × 全体最適を考えない × 逆算思考しない」というもの。だから、日本人は働けど働けど豊かにならないように思います。でも、風向きは変わり始めていると感じていて、ここ半年くらいで一般の工務店などでも省エネの認知度が高まってきています。温浴施設や宿泊施設において、投資をそれほどしないで、いますぐできる省エネ対策を並べてみると、次のようなものがあるでしょう:

・宿泊施設の最上階や外周部の部屋は使わないか後回しにする

・予約の部屋を密集させることで熱損失を減らす

・冷暖房費が高すぎる時期は少し宿泊費を上げる

・電力やガス会社を最安の会社に変更する

・よく水を使う厨房エリアには節水蛇口にする

・インナーサッシ取り付けや中間層ブラインド(BAC工法)採用

・太陽光発電を設置する

・最上階天井断熱補強

・打ち込み井戸設置、などがあります。費用効果が高い投資項目に関しては、金融機関が融資を推奨するような状況を作ってゆくことも大切です。

 

 

質疑応答の後、最後に、たかやま林業・建設業協同組合の長瀬雅彦氏より「森林の多機能な利用とグリーンインフラの活用」についてお話をいただきました。本業は長瀬土建で土木を生業にしているが、飛騨高山の森林でドイツに学んだ林道づくりも進め、それを「グリーンインフラ」にする活動をしています。森林で大事なことは、今の形をそのまま保つのではなく、後世につながるように変え続けてゆくこと。現在の人工・単層林を、“多様で健全な森林”に誘導することは重要だと考えています。

 

また、木が大きくなり伐期が来て、「再造林したい」「最新のチッパー機など導入し生産性アップしたい」と思っても、機械が入れる林道がなければ何も始まりません。建築現場でのICT化も進んでいます。今はドローンで撮影した山の現場のデータを3次元のデータとして取り込み、設計データを入れたらあとは機械が自動的に掘ってくれるような施工技術も実用化まで来ています。ドイツの森林管理のプロ、フォレスターも、「日本の人工・単層林を樹種構成豊かな恒続林にしていくためには“理想の道”が必要」だと言っています。さらに雨水が側溝に排水される中央が盛り上がった屋根型構造の林道を進めています。排水管を魚が遡上できるよう工夫し設置するなど、自然環境にも負荷を与えず、人・機器にもストレスを与えない、100年使える丈夫な道の作り方についてもノウハウをたくさん構築しつつ、事業を推進しています。

 

寺社建築の第一人者と呼ばれる、奈良の小川三夫棟梁の人材育成の言葉の中に次のようなものがあります:「次の世代の人のために、うそ偽りのあるものを残してはいけない。本物とはいつの世でも変わることなく心を打つものだ。その時々に精いっぱいのことをしておけばいい。」

 

私はドイツに何十回も行っていますが、「ドイツと日本は地形も地質も法律も違うからできない」と言い訳をするのではなく、まず自分で実証してみる、できない理由を探すのではなく、今できることは何があるのか、少しでもポジティブに考えてベストを尽くして、動くことが大事。日本の林道も、欧州のようにみんなが森林と親しむ機能を持つなど、多機能な道となってほしいと思います。