クラブ・ヴォーバンに集う人たちのテーマ「持続可能なまちづくり」はどんなところからスタートしたのか、設立から現在、そして将来についてクラブ・ヴォーバン代表の早田宏徳氏にインタビューしました。
◉ 持続可能なまちづくりへの想い
僕が初めてドイツに行ったのは2007年。それ以来、日本の工務店の仲間を連れて何回もドイツ視察をしていますが、ドイツに行って色々なことを学んでも、日本に戻ってくると結局何をしたらいいか分からず、政治や自治体の違いのせいにしてしまう人も少なくありませんでした。
でも、批判しているだけでは何も始まりません。だから、自分たちでできることは何か?ということを考えました。そこで僕はドイツ・フライブルクのヴォーバンのようなまちをつくりたいと思い、クラブ・ヴォーバンを村上さんと立ち上げました。
ヴォーバンのようなまちは現段階での目標だと思っています。しかし、そこにいくまでにやらなければならないことがたくさんあり、かなり長い時間がかかります。そしていつかはヴォーバンを超えるまちづくりができることが最終目標です。
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その目標に向かうために行った行動とは
ヴォーバンのようなまちづくりを行う第一歩は、ドイツを知ることです。ドイツでは省エネも再エネも市民が意識してやっているというよりも、仕組みとして浸透しています。これは政治や行政の力が強いということですね。
ドイツでは様々なグランドデザインが国として決められ、それに対して企業は動き出す。建築分野では新築、省エネ改修リフォーム含め建物のエネルギーをはかる物差し「エネルギーパス」というものがあることを知りました。
そこで、最初に取り組もうと思ったのが日本版のエネルギーパスです。「日本でも省エネ建築を進めるならエネルギーパスが絶対に必要だ、これをやらなきゃ」と思って、ドイツと日本の仲間と一緒にエネルギーパスの仕組みを日本に取り入れました。
◉ 一生懸命良い家を作っている工務店さんの為に~震災後に変わるお施主様のニーズ~
日本エネルギーパス協会を設立したのは2011年7月ですが、この取り組みは震災前から始めていたことで、当時は建物の燃費性能に関心を持つ人なんてごくわ ずかでした。でも、震災後は色々な方が建物の燃費性能の大切さを普及するために頑張っていて、この5年間で国も社会もだいぶ変わってきました。
僕自身のこれまでを振り返ると、ドイツで学んだことを発信する場として、代表の村上とクラブ・ヴォーバンを設立し、省エネ建築推進に必要不可欠なエネルギー パスを普及するために日本エネルギーパス協会を立ち上げました。そしてエネルギーパスで建物の燃費性能の表示ができるようになったから、日本で誰も作って
いないような性能のいい住宅を作ろうと思い、低燃費住宅をつくりました。他にも再エネ事業なども行っています。
◉未来の子どもたちのためにできること…
30年後、40年後でも人が住んでいるであろう地域に、30年後40年後でも安心して住める住宅をつくることです。今は、小さくても住む人の人生や財産を守ることが出来る住宅と地域をたくさん作る仕掛けをしています。
30年後、40年後でもそこに人が住んでいるのであれば、長持ちする住宅、エネルギー価格が高騰したとしても生活できる住宅を建てるべきで、それは未来の子どもたちのためにあるべきです。
◉ 早田氏のミッションとは
時間をかけてこうした住宅づくりを積み重ねれば、ヴォーバンのような美しいまちにはならないかもしれませんが、限られた小さなエリアでも少しずつ持続可能な暮らしができる地域が作られていくはずです。そういう地域をつくるのが僕のミッションだと思っています。
もちろん、これは自分の力だけでは実現できません。
まずは一人ひとりのお客様にこうした考え方をお伝えして、「住宅を建てるなら30年後、40年後も人がいるエリアであるべき」、「小さな土地でも住みよい建物で快適に暮らす」といった意識を持ってもらうことが大切です。
◉ ネットワークを活かし全国に広がる持続可能なまちつくりと人財育成
そして、こういう地域づくりを広げていくためには数も重要です。僕一人だけががんばっても、30~40年かけて多くて500人ぐらいのお客様が幸せに暮らせ る住宅をつくるとか、それでいくつかの地域ができるかな、というのが限界で、それでは日本全体は良くなりません。1人の行動だけでは社会全体は変わらない のです。
だから地方の工務店に、それぞれの自分のまちに持続可能な地域を作ってもらうことが欠かせません。地方の工務店が、自分が知り 合った人や親戚・身内だけでもいいから、その地方の住民の方にこの考え方を伝えて、あるべき場所にあるべき建物を建てる。そういう地域が増えてくれば社会 全体が変わってきます。今のフェーズ・この10年間の目標は、100の工務店で100のそういう地域をつくることです。
また、まちづくりには時間がかかります。エネルギーパスが普及し、省エネ住宅が普及して持続可能なまちができるのは、今よりも2世代ぐらい後だと思います。だから、この取組みを引き継いでいくために若手の人財育成も進めています。
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ヴォーバンに暮らす人々に魅せられて
ヴォーバンで感じたまちの魅力は、まちに暮らす人々が幸せそうなことです。お父さんやお母さんが子どもと一緒に昼間から遊んでいる光景には驚きました。
これは働き方の話に関係してきますが、ドイツの人は共働きが多くて、両親のどちらかは早く帰って子どもと長い時間過ごせるような仕組みになっていると聞きま した。1人ひとりの収入はそれほど高くなくても2人とも働けば十分な収入が得られるし、子どもを預ける場所がある・教育費もかからないなど、安心して子ど
もを育てられる社会基盤があり、親子が家族の時間を取れるような働き方ができる仕組みが整っている。それってすごく幸せなことだと思います。
そして、ドイツではほとんどの人が賃貸住宅に住んでいますが、建物が長持ちしているから賃貸でも家賃がそれほど高くならず、国全体で省エネを進めているから光熱費も安い。住宅への出費に追われないからあくせく働かなくても豊かな生活ができ、いいことずくめです。
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「お子さんやお孫さんが幸せになる家を建てます!」
一方、日本では長持ちしない新築を建てては30年程度で壊してまた新築、を繰り返し、社会全体の省エネ化も進まず、住宅ローンに光熱費の上昇に、多くの人が 苦しんでいます。日本の社会や制度には変わるべきところがたくさんありますが、僕が出来ることとして、せめて子どもや孫が家賃や光熱費に追われないような 住宅を建てたいと思っています。
僕が建てる家は、建てる人のエゴで建てる家ではなく、その人の子どもや孫のためになる住宅です。お客様にはいつも、「あなたのお子さんやお孫さんが幸せになる家を建てます」と言っています。長持ちで燃費のいい家だから、建てる人は自分の代は少し苦しいかもし れませんが、子どもや孫が家のための出費をしなくて済むのです。低燃費住宅を建ててくださる方はそれを理解してくださっています。
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意識よりも仕組みづくりを
よく、「今の若者は欲が無い」と言う人がいます。確かに、消費がしづらくなっている・ものを買うことのハードルが上がってきている状況はあると思いますが、今の若い人たちは苦労している分、価値があること・損をしないことが分かれば、むしろ未来のために投資をするのではないでしょうか。
それに、若者に欲がない状態をその若者個人の責任にするのは違うと思います。大切なのは、社会が、若者が価値のあるものに安心してお金を出せるしくみをつくることです。
だから僕は、価値が下がらない住宅を、価値が下がらない場所に建てる。そうすると住宅への投資が活発になり、お金がまわり、社会が元気になります。
また、家を買おうとまで思うかどうかは分かりませんが、「未来の子どもたちのために」「持続可能な社会づくりのために」という考え方をしたアパートに暮らし たいとか、そういう考え方の住宅会社だったら応援したいとか、社会を変えたいとか、そういう気持ちは今の若い人たちの方が強い気がします。
僕がつくりたいのは、こういう持続可能なまちづくりができるための仕組みや仕掛けです。社会がよくなるためには個人に考えさせるのではなくて、仕組みとして 浸透させることが重要です。これからも、省エネ住宅を建てる人・選ぶ人を増やす仕組みをつくっていきたいと思っています。
インタビューを終えて…
今の大人にとっても未来の子どもたちにとっても幸せな「持続可能なまちづくり」のために、自分に何ができるのか?
「ドイツと日本は、社会が違うから・政治が違うから無理」と諦めるのではなく、まずは自分から・身近なところから、ひとつひとつ行動して積み上げ奔走する早田氏の姿と想いが、伝わってきました。
▼一般社団法人 日本エネルギーパス協会 http://www.energy-pass.jp/
▼株式会社 低燃費住宅 http://tnp.jpn.com/
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