今回は、クラブヴォーバンのプロジェクトメンバーの一人であり、在ベルリン調査員・環境政策研究者の西村健佑さんです。
西村健佑さんは、ドイツ・ベルリンに在住し、ドイツを始め欧州の環境・エネルギー政策について調査、通訳、翻訳を手がけ、日本に正しい情報を伝える活動をされています。西村さんがドイツに留学した理由から、欧州で起きている環境政策の中で、いまもっとも興味深い動きについても伺ってきました。
■ドイツでエネルギー政策を学ぶまで
Q:西村さんは、学生のときになぜドイツへ留学されたのでしょうか?また、現在特にエネルギーの分野を専門としている理由について教えてください。
日本の私立大学で環境経済を学んでいた2004年に、ドイツが太陽光発電の導入量で世界一になり、それまで一位だった日本を抜いたというニュースを聞いて驚きました。そこでドイツの政策を詳しく調べると、環境を守ることと経済は両立が難しいので上手く回さなくてはいけないという考えではなく、むしろ環境について取り組むことで経済がうまくいくという考えのもとに政策がつくられていることがわかりました。そこで、英語もドイツ語もままならない状態でしたが、修士課程からドイツの大学で学ぶことにしました。
エネルギー政策の分野に関わった主な理由は、ドイツに行くきっかけが、太陽光発電がドイツでなぜこんなに伸びたたのかという理由を知りたかったからです。そしてドイツの指導教官がたまたま、気候変動を含めて環境、エネルギー政策の分野で著名な専門家であるミランダ・シュラーズ教授になったのも幸運でした。
■ドイツでの現在の仕事
Q:ドイツではどのような仕事をされていますか?
主にやっているのは、通訳と調査活動です。2016年までは貿易商社に就職して、調査部門で働きました。ドイツのエネルギー転換は、ドイツに住む人すべてが関わりを持ち、社会のあり方を一緒に変えていく壮大な取り組みです。そのため、政治、政策、市場、社会のすべての視点を持ってエネルギー転換を見ていく必要があります。こうした視点から、ドイツを中心としてエネルギー転換の動きを調査しています。
お客さんは、日本の政府関係、シンクタンク、民間のコンサル事業者などさまざまで、ドイツだけでなくヨーロッパ各国の環境政策の実態や、マーケティングに関わる市場の動向など、必要な情報をお客さんに提出しています。日本では、エネルギー政策を単体で考えることが多いのですが、ドイツは国にせよ地方自治体にせよ、まず気候変動政策があって、その下でエネルギー政策を決めていきます。その考え方を伝えることも大切だと思っています。
2017年からは独立して、基本的には個人で仕事を受けることにしています。最近は、大学の先生からの問い合わせも増えています。大学の場合は意義はあるのですが調査費が限られている場合が多い。そのようなときには企業では難しいですが個人なら引き受けることもできますから。
■ドイツにいなければわからない再エネの最新情報を日本に伝えたい
Q:クラブヴォーバンとの関わりや、どんなことをしているかについて教えてください。
クラブヴォーバンに参加したのは、2013年にメンバーがベルリンで合宿をするときからです。その数年前から村上敦さんや早田宏徳さんにはお会いしていましたが、実際に行動を起こして実践していく姿勢が魅力的に感じました。また、省エネ建築などについては詳しくなかったので、それも勉強になっています。
クラブヴォーバンの中では、メンバーがプロジェクトチームに分かれて取り組みを行っています。ぼくは再生可能エネルギーについてのチームに入っています。まだ立ち上がったばかりですが、ドイツにいなければわからない重要な動きを日本の皆さんに伝えていきたいと思います。
■ドイツのバーチャル発電所(VPP)や都市公社のしくみを日本にも
Q:いま、西村さんが特に興味を持っている分野は何でしょうか?
大きく言うと2つあります。ひとつはバーチャル発電所(VPP)です。小さな発電所をインターネットでつなぎ、まるで大きな発電設備のように使う技術です。再生可能エネルギーの設備は、ひとつひとつでは発電する量が不安定ですが、バーチャル発電所の技術を用いることでその不安定さを小さくすることができます。また、小さな発電所でも電力のやりとりができるようになることで、一般市民が参加できる仕組みになるというメリットもあります。
2つ目は、ドイツでは自治体が出資して地域のインフラに関わる事業をまとめる都市公社が、大きな存在感を持っています。これは「シュタットベルケ」と呼ばれます。日本でも、自治体が出資する新電力会社が生まれてきたので、その動きをサポートしながら、地域活性化に役立てていければいいですね。日本とドイツとでは社会環境もかなり違うので、いまは日本でできることを整理していく段階です。
エネルギーを含めたインフラは、暮らしに欠かせないものです。欧州では、単に短期的に得だからとそれを民間事業者に譲るくらいなら、多少負担しても自分たちの地域で運営していこうという覚悟があります。日本でも、自分たちの地域に適した選択肢を選ぶことで、身近な人たちから信頼される組織に育っていくのではないかと考えています。それをお手伝いできたらいいですね。
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