今年5月に環境省内で開催した特別篇・持続会には、多くの地球審議官や大臣官房長の方はじめ、多くの省庁関係者の方にご参加いただき有意義な会となったため、引き続き持続会の正会員の自治体の方と環境省の方をつなぐべく、環境省近くのイイノホールで持続会を開催しました。
今回は、
① 地域にお金が循環する形での自治体が関わる新電力会社の設立方法
② ドイツの最新の電力市場とVPP(仮想発電所)ビジネス
③ 地域産材の利用はどの程度地域に利益をもたらすのか
④ 補助金に頼らない稼げる自治体の事業計画の立て方
⑤ 買い物難民を救う、稼ぐ地域移動スーパー
についての話題提供と、クラブヴォーバン会員自治体が来年度以降、地域経済循環型のどんな事業を計画し取り組みたいかの発表の場を作りました。
特別講座の最初には、公財東京都環境公社 東京都地球温暖化防止活動推進センターの北橋みどりさんから、「持続可能な地域社会・環境のためになる、地域新電力とは」と題してのレクチャー。全国の新電力の状況について調査された内容について、また、やってみてわかった新電力の様々な誤解、また再エネを活用した新電力を検討するためのポイントなどについて、丁寧な説明がありました。需給管理は、最近は専用のソフトウェアなどもあり想像していたほど大変ではなく、再エネ電気を使っても電気代は高くならないそうです。
続いて、北橋さんと一緒に調査をされた京都大学研究員の稲垣憲治さんから、「地域新電力の地域経済付加価値分析と連携の有効性」と題して、地域と連携してうまく運営されている新電力の事例を分析した上での、事業のポイントについての説明がありました。地域新電力の「目的」と「手段」の一致がとても大切であること、もし、地域でお金を回すことが目的なら「資本はできるだけ地域で」「業務はできるだけ地域内の企業で(需給管理は自前で)」ということが基本であること、需要規模が小さく単独では事業性がない地域新電力についても、連携により事業の実現可能性が高まること、などの説明がありました。
続いて、クラブヴォーバンのプロジェクトメンバーであり、ベルリン在住の調査員である西村健佑さんから、「ドイツの再エネ進展と電力取引市場の進化による仮想発電所(VPP)というビジネス」のテーマで、ドイツの最新再エネビジネスの状況について話題提供でした。VPP(バーチャル発電所)とは、発電所ではなく「エネルギーマネジメントシステム」のことです。ドイツではVPPが発展し、電力供給における「ベースロード」(必ず必要になる電力量)という概念が消失。ドイツの電力市場は、「スポット市場」「調整電源市場」の2つがあり、前者は発電量予測が鍵であり、15分毎の予測と実際の需要の差が小さければ小さいほど儲かる仕組みになっており、後者は柔軟性を確保することが目的なので、電力の容量を確保しておくことにも、お金が支払われる仕組みになっているそうです。そのため、日本での今後の地域新電力を考えたときに、商品は電力だけではなく、地域で持っている情報をいかに収益化するかが重要であるとのことでした。
続いての本会議の冒頭は、クラブヴォーバン代表理事の早田宏徳より開催の挨拶。CV理事で(一社)エネルギーパス協会代表の今泉太爾が開発した、簡単に日本の電力需給実績を見える化できるツール(HP → https://wellnesthome.jp/energy/)と、早田が執筆した「電気料金は本格的な上昇局面へ。ZEHが不可欠な理由とは」(HP→ https://wellnesthome.jp/1262/)の紹介。
次に、昨年から準備を進めてきた「地域経済好循環モデル」について、クラブヴォーバン会員8自治体からの報告と、今後の進め方について代表の村上敦が司会を務め、議論が行われました。その後、環境省大臣官房環境計画課の金井信宏さんから、「再生可能エネルギー活用によるCO2削減加速化戦略」として中間報告をしていただきました。
さらに、公財自然エネルギー財団上級研究員の相川高信さんから、「地域産材を活用した場合の地域経済における影響」と題して、日本の木材・住宅市場の概観から先行研究例の紹介、2x4住宅の投入される構造用木質製品を、輸入材から地域の木材に変えることで、地域のGDPなど経済波及効果が圧倒的に大きいことの実証について発表がありました。自治体に対しては、地域産材を使った住宅への補助や、公共建築の木造化や公共住宅の可能性、広域連合などに関わり木材加工施設のネットワーク化や複数市町村の物件を継続的にコーディネートすることなどの提案が行われました。
次に、一社 エリア・イノベーション・アライアンス代表理事の木下斉さんから、「補助金依存のまちから、稼ぐまちへ」と題して、自治体として関わるべき事業の在り方についてのレクチャーでした。20年近く、まちづくりに関わる仕事をしてきた木下さんは、「事業をスタートするときにかかるお金ではなく、その後かかるお金ライフサイクルコスト(例えば、建設だけでなく、維持費・大規模改修費・解体コストも含め)全体でみて事業モデルを立てないといけない、という基本に戻ることが重要」と強調されます。今年村上の案内でドイツを訪問した際にも感じたそうですが、自治体の皆さんには、ドイツのしたたかな役人のように、施設テナント会社も運営企画会社も役場も黒字ということを目指して、再エネによるまちづくり事業と制度設計を進めていただきたい、とのことでした。
最後に、移動スーパーとくし丸 株TサポートCEOの村上稔さんから、「買い物難民をなくせ!歩く民主主義の移動スーパー」と題して、補助金なしで徳島県の買い物難民問題を解消し、全国にもそのネットワークが拡がりつつある話でした。移動スーパーの事業を始める前までは、徳島市議会議員として買い物難民にも関心が高かった村上さん。2012年に二人で始めた事業は、現在徳島・香川で個人事業主さんが走らせる移動スーパーは28台、徳島県内の90%の地域をカバーしているそうです。(全国の買い物難民は700万人、うち7.5万人が徳島県内)スーパーとくし丸は、3つの社会的な事業目的 ①命を守る(買い物難民の支援)②食を守る(地域スーパーとしての役割を果たす)③職を創る(社会貢献型の仕事創出)を念頭に事業を展開。移動スーパーは、従来採算が取れないと思われていましたが、十分採算を確保できる事業モデルを著書の中で公開しているので、ぜひ全国の皆さんも取り組んでほしいとのこと。また、1台の車が1日30~35か所、週に2回、効率的に地域を回るので、その地域の人たちがそれぞれに車でスーパーまで往復で買い物に行くガソリン消費などを考えると、とてもエコ。徳島・香川28台のとくし丸のネットワークで、毎日420~430Lのガソリンを節約していると試算できるそうです。