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エネルギー自立地域経済好循環 × イノベーション 
                 持続可能なまちづくり

第7回 ニールセン 北村 朋子(CVPTメンバー / ジャーナリスト・コーディネーター・アドバイザー)

デンマーク・ロラン島に暮らすニールセン北村朋子さんは、日本に持続可能な取り組みを紹介しているジャーナリストです。デンマークは、2050年までに電力はもちろん全エネルギー供給を100%自然エネルギーに転換する、という野心的な目標を掲げています。中でもロラン島は、すでに電力のおよそ700%を風力やバイオマスなどでまかなう環境先進地域となっています。

デンマークと日本を行き来する北村さんから、デンマークで持続可能な取り組みが続けられている理由や、日本にも導入できる取り組みなどについてお聞きしました。

■島で目にした風車とワラのヒミツは?

Q:持続可能性について興味を持ったきっかけは何でしょうか?

ロラン島に行く前は、日本でフリーの映像翻訳家をしていました。デンマークに住むようになったきっかけは、結婚した彼の故郷がロラン島だったからです。持続可能性について深く考えるようになったのも、ロラン島に行ってからです。

2001年に島に到着したときの印象は、見たこともないほどたくさんの風車があちこちに立っている光景でした。風車は誰が所有しているんだろう?というのが最初の疑問です。また、畑には大きな四角いワラの塊が積み上げられていて、これも私にとって謎でした。

聞けば、風車のほとんどはその辺りに住んでいる個人の農家や、地域で所有していました。現在は自治体や国レベルが所有するものも多いのですが、当初は農家の人たちが出資して、売電収益を得るところからこの島に風車が広まっていきました。日本にいた頃は、エネルギーは国や電力会社がつくるもので、自分たちには関与できないと考えていたので、普通の市民がエネルギー設備を所有して、運営するというのは衝撃でした。

 

また、ワラの塊はバイオマスの燃料として、地域暖房をまかっていました。設備に投入しやすいように、共通の四角いサイズに整えてあるんです。燃やした後に残る灰は、畑に持ち帰って肥料にする。話を聞けば聞くほど、島に来て目についたものが、ぜんぶ無駄なく循環していることに驚きました。さらに衝撃を受けたことは、そういうことを一般の人が理解しているということです。もちろんレベルの差はありますが、誰に聞いても島の持続可能な取り組みについて説明できる点はすごいと思いました。

■大人がいつでも学べる環境

Q:デンマークやロラン島は、どんな所が持続可能だと思われますか?

ひとことで言えば、循環型の社会であることです。またそういう考え方を、いろんな世代が共通した認識を持つことのできる教育をしていることも大切です。教育といっても、子どもの頃の学校教育だけではありません。大人になってからも新しい知識を得る機会がたくさんあります。ロラン島では、農家が手の空く冬に誰でも気軽に聞きに行けるカルチャー教室が開催されます。エネルギーの分野では、例えば「自分の家をエネルギー効率が良い家にするには?」とか、「自家用風車の建て方について」といった講座などです。

 

テレビなどでもよくこうしたテーマの番組をやっています。またエネルギーに限らず、「あなたに何ができるか?」という内容の番組が圧倒的に多いように感じます。デンマークでは、日常会話でそのような社会的テーマを話すことは普通なのですが、日本に帰って友人と話をすると「そういう難しい話やめようよ」と言われてしまいます。でも、無関心でいることで高い電気代を気付かずに払っていたり、断熱せず寒い家にガマンして住んでいたりするのは、もったいないと思います。

 

■お薦めは自転車道の整備

Q:クラブヴォーバンでの役割は何でしょうか?

クラブヴォーバンが素晴らしいのは、個人や家庭レベルでできることだけでなく、地域とか国レベルで変えなければならない部分を、自治体などと協力して変えていこうとしていることです。私が貢献できるのはそういう部分になります。 

日本の自治体でもぜひ導入してもらいたいことのひとつは、デンマークで進んでいる自転車インフラの整備です。自転車専用の道路が整備されているデンマークでは自転車に乗る人が増え、それによって大きな社会的価値を生み出しています。コペンハーゲンの自転車専用道路は、1日4万人以上の人が利用しています。端で見ているとすごいスピードで怖く感じましたが、実際に走ってみると車を気にしなくて良いのですごく楽でした。自転車用の信号もあるし、車線も別れている。安心感がぜんぜん違いました。

東京に住んでいた時は、車道を自転車で走るのがすごく怖かったのを覚えています。自転車レーンのある道でも、路上に駐車している車があるので大きくはみ出さなければいけません。かつて自転車体験ツアーをコーディネートしたことがありますが、そういった違いや快適さを、実際に確かめられる機会を増やしていきたいと考えています。

 

日本であっても、どこかの自治体でモデルをつくって実施すれば全国で広がると思います。既存の道路を拡張するのは難しいでしょうけど、高架型の自転車道をつくればいい。災害などで下の道路が使えないときには、緊急車両用の道路としても活用できます。それができるだけの技術と知見を、日本は持っているはずです。

■将来どんな社会をつくりたいか?

Q:デンマークと日本とを行き来している北村さんから見て、日本社会をより良くするカギは何だと思われますか?

日本社会はいま、急激な変化にさらされています。本来ならそれに合わせてシステムを再構築しなければいけないのですが、現実がなかなか追いついていないと感じます。その根本には、これから人口が縮小して若者が減っていく中で、日本がどういう国になりたいのか、どういう社会を作りたいのかという方針がはっきり決まっていないというのがあるかもしれません。

もちろんデンマークも問題はあるのですが、デンマーク人がすごいのは、自分の国の課題は何で、将来どうあるべきか、ほとんどの人がはっきりとした意見を持っていることです。そして地方や国の議員はそうした意見を吸い上げて、政治を進めようとしている。

ドイツも同じです。将来どうするかという目標を決めて、それが実現できるようロードマップを定めて動いています。目指す所がはっきりしているから政権が変わったくらいでブレることはありません。でも日本では、残念ながらどこに向かいたいのかがわからない。行き先がわからなければ、企業は先行投資ができません。経済が停滞するのも当然です。

 

もちろん、政治の役割は大きいですが、それを支えるのは一人ひとりがどんな日本にしたいのか、というビジョンを考えることから始まるのではないでしょうか。何もドイツやデンマークの真似をする必要はありません。ただ、デンマークがやっていることには日本の方向性を考える上で、たくさんのヒントがあると思います。私は、そのヒントを探すお手伝いができたらいいと思っているんです。