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エネルギー自立地域経済好循環 × イノベーション 
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第9回 吉田 登志幸(CV監事 / オストコーポレーション北関東)

「地方に活気を取り戻して分散型社会をつくりたい」と語る吉田登志幸さんは、その言葉通り都心でのサラリーマン生活をやめ、のどかな栃木県佐野市に家族とともに移住しました。手がけているのは、国内最高性能を誇る木製トリプルサッシなど、高気密高断熱住宅用の建材販売です。

地域の工務店と組んで、寒い北関東に暖かい住宅を提供している吉田さんは、自らも自社の建材を存分に使った素敵なお宅で暮らしています。エネルギーパス協会の理事も務める吉田さんから、断熱の重要性や、クラブヴォーバンの活動について伺いました。

■一目惚れしたスウェーデン様式の木製の家
Q:なぜ高気密高断熱住宅用の建材を扱うようになったのでしょうか?

かつて務めていた住宅関係の建材を扱う商社にいたとき、仙台の総合展示場でスウェーデンハウスというメーカーのモデルハウスを見て、一目惚れしました。とにかくデザインが格好良くて「いつかこんな家に住みたい!」と憧れるようになったんです。その会社では9年ほど営業をしていました。会社の方針は薄利多売で、自分が心から薦められない商品でも売り続けなければいけませんでした。

そんなことをしていても楽しくないし、お客さんから感謝されることもありませんでした。会社の尊敬する先輩はすでに独立していて、スウェーデン製の建材を扱う会社を立ち上げていました。入社して10年目となる2001年に、僕も会社をやめて、先輩の会社ののれん分けのような形で、現在の(有)オストコーポレーション北関東を立ちあげました。

 

スウェーデン様式の家の魅力は、何といってもデザインの良さです。さらに、断熱性能など住宅としての性能もきちんとしています。どちらかだけという家はありますが、両立している家はなかなかありません。

 

僕は一般の消費者に直接売るのではなく、工務店や設計事務所を対象に建材を卸しています。どんな相手でも売らなければいけなかったサラリーマン時代はストレスもありましたが、いまはきちんとコンセプトが一致する住宅のプロが相手なので、やりがいがありますね。お客さんに納得した上で買っていただいているので、いわゆるクレームになったことはありません。たとえ施工後に多少の不具合があったとしても、調整して元通りにすることができます。ありがたいことに、全国に広げて欲しいという話もいただくのですが、自分自身がメンテナンスできる範囲で責任を持ってお売りしたいので、いまは栃木、群馬、茨城、埼玉、福島などに限定させてもらっています。

もちろん、政治の役割は大きいですが、それを支えるのは一人ひとりがどんな日本にしたいのか、というビジョンを考えることから始まるのではないでしょうか。何もドイツやスウェーデンの真似をする必要はありません。ただ、スウェーデンがやっていることには日本の方向性を考える上で、たくさんのヒントがあると思います。私は、そのヒントを探すお手伝いができたらいいと思っているんです。

 

■こだわりの木製サッシ
Q:注文が多いのはどのような建材でしょうか?

売上として多いのは、木製断熱玄関ドア、サウナ、床材や羊毛を使った断熱材や珪藻土の塗り壁など複合的なラインナップです。いずれも家の断熱や調湿性能に関わる材料でもあります。
うちが扱う建材で僕が気に入っているのは、トリプルガラスと木製サッシの高性能窓です。家のエネルギー性能を左右するのは、開口部の窓になります。ドイツなどでは樹脂サッシが主流ですが、北欧では木の家が多いのでサッシも木製です。外観は木のほうが断然良いと思います。さらにうちが扱う木製サッシは断熱性能も最高レベルで、寒い北関東でも暖かく過ごせます。

 

木製ならではの注意点としては、初期投資が少し高くなるのと、定期的なメンテナンスが必要になることです。風雨にさらされるサッシの外側に5〜6年に一度、塗装することをお勧めしています。窓枠が一回転するので、2階の窓でも自分で塗る事ができて経済的です。

新築ならこのような木製トリプルサッシをお勧めしますが、リフォームされる場合は、費用対効果を考えると木製の内窓がいいと思います。実は福島県会津地方の材木屋さんと、10年近くかけて共同開発した国産材を使った木製の内窓を、今年から本格販売できることになりました。これまでは輸入品の建材だけを扱っていましたが、性能の良い国産のものを使いたいというのは以前から思っていたことです。

 

窓はペアガラスで、ガラスとガラスの隙間は16ミリの空気層があります。ここまでしっかりつくられている内窓はなかなかありません。性能はもちろんですが、インテリアとしても見映えがします。まだ原価が高いのですが、経産省の省エネ製品として認められ補助金が出ることになったので、お客さんには割安で手に入れてもらえるようになりました。

■家のエネルギー性能表示をスタンダードに
Q:クラブヴォーバンでの役割を教えてください

クラブヴォーバンには、省エネ建築を手がける工務店さんがたくさん参加しています。僕は住宅業界にいますが、家をつくる工務店ではないので、業界のつなぎ役として一歩引いた立場から、どうやったらうまく連携できるかを提案できる立場だと思っています
またエネルギーパス協会の理事として、講習を手がけています。エネルギーパスは、家のエネルギー性能を計る共通のものさしをつくろうということで広げてきました。住宅業界では、「言ったもの勝ち」みたいな風習があって、それぞれが「自分の会社の家はすごい」と宣伝しています。それを共通のものさしで計れば数値で比較できるので、ハッタリが効かなくなります。


2017年4月からは、国が「BELS(ベルス)」という新しいものさしを基準にしました。この動きは、エネルギーパスの広がりが触発した面があるかもしれません。今後は、新築住宅についてはBELSが基準になっていくでしょう。ではエネルギーパスがいらなくなったかというと、そんなことはありません。
BELSは、建物の外皮性能はわかりますが、野原の一軒家に建った家を前提としているので、日当たりや、風況といった環境条件は反映されていません。さらに、大切なはずの気密は国の基準から外されているので、反映されていません。エネルギーパスは、環境条件も気密も総合的にキッチリ計算できるので、 BELSよりリアルな性能がわかるようになっています。


さらに、例えば中古住宅の価値基準は、消費者にはわかりにくいものになっています。そのエネルギー部門の価値を決めるとき、エネルギーパスで表示する形で活用していけるはずです。新築か中古かを問わず、家のエネルギー性能表示を一般の方に、もっとわかりやすい形で提示していく社会にしていく必要があります。

 

■小規模分散で地方を元気にしたい
Q: どんな未来を作りたいでしょうか?

一極集中ではなく小規模分散型の社会になればよいと思っています。それはクラブヴォーバンがめざす社会とも共通しています。僕が独立するときに佐野市に移住した理由のひとつは、北関東エリアで販売するのに地理的に便利だったからですが、もっと大きな意味では、都会ではなくもっと人間らしい暮らしをしたいという願望がありました。家の近くにはコンビニがありませんが、不自由したことはありません。仕事だけでもなく家だけでもなく、人生を総合的に考えて佐野で暮らすことにしたのですが、正解だったと思います。
以前の僕がそうだったように、サラリーマンの大多数はみんな忙しすぎて、家庭や地域を顧みるエネルギーがなくなっているのではないかと思います。こういう暮らしをする人が増えたら、もっと地方が元気になるのではないでしょうか。

 

日本で人口減少や少子高齢化が進むのは、避けられないことです。それなら嘆くのではなくアクティブにとらえて、高齢者が地域のために活き活きと働ける社会を作れたらいい。でも高齢者が寒い家に住んでいたら、病気になる人や寝たきりが増えてしまいます。そして医療費や社会保障費がさらに増加して大変なことになります。そうならないためにも、高気密高断熱の家が普及することは本当に大切です。寒くない家で、健康に長生きしてもらうのがいいですね。わが家も高断熱高気密住宅になってからは、家族みんな風邪をひきにくくなりましたから。