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エネルギー自立地域経済好循環 × イノベーション 
                 持続可能なまちづくり

第11回 ラウパッハ・スミヤ・ヨーク(CVPTメンバー / 立命館大学経営学部教授)

立命館大学で国際経営学を教えるラウパッハ・スミヤ・ヨーク教授は、ドイツのご出身です。ドイツと日本で、20年以上にわたってビジネスの世界で生きてきたラウパッハさんが、「再生可能エネルギーの地域経済効果」を研究するようになった理由は何でしょうか?

疲弊した地域を立て直すため、エネルギーという視点から何ができるか? 日独の橋渡し役として、日本社会に提言を続けるラウパッハさんに伺いました。

■ドイツと日本との橋渡し役に
Q:ビジネスを営んでいたラウパッハさんが、大学でエネルギーを教えるようになった経緯を教えてください。

エネルギー問題を手がけるようになったのは、2011年の原発事故がきっかけです。当時はドイツにいて、ドイツの大学で国際経営学について教えていました。原発事故のあと、ドイツに残るか妻の故郷である日本に戻るかとても迷いましたが、日本の大学とのご縁があって日本に戻ることにしました。ただ、日本に戻るのであればいままでと同じことをするだけではなく、エネルギー問題を手がけなければという使命感が芽生えました。

特に再生可能エネルギーは、巨大な集中システムから小規模分散型システムへと、産業革命のようなダイナミックな変化が起きています。ドイツはその分野で世界をリードしているので、私は日本との橋渡し役になれるのではないかとも感じました。ドイツと日本でさまざまなビジネスに携わってきた私にとって、国際的な産業であるエネルギー分野は、経営学そのものです。別の分野をやっているという意識はありません。

 

再エネの地域経済効果
Q:大学ではどのような研究をされていますか?

主に、再エネと地域経済の関係性を研究しています。いままでは、エネルギーを手に入れるために地域から富が流出してきました。地域資源である再エネを有効活用することで、そのお金を地域の中で循環させられれば大きなプラスになります。研究ではそのメカニズムを定量化して、成果を各自治体に紹介していこうと考えています。

すでにいくつかの自治体と共同して事例研究をしています。例えば長野県で行われたメガソーラー事業では、県内の事業者を積極的に使う場合と、主に県外の事業者を使う場合とでは、地域に及ぼす経済効果がおよそ2.5倍の差が出るという結果が出ました。ただ、理屈ではメリットが有るとわかっても、政策としてどうやって織り込んで、成果を可視化していくかについてはまだまだハードルがあります。これからは、そのあたりを深めていきたいと思います。

 

効果的な政策を実現させるカギは、地域の合意形成です。再エネが増えた一方で、地域住民の反発などいろいろな課題も生まれています。そこで、「このようなやり方で導入すれば、自治体にも住民にも双方にメリットがある」というモデルを示してサポートしていきたいと考えています。

また、ドイツで自治体が出資してエネルギー事業全般を手がける事業体を「シュタットベルケ」と呼ぶのですが、日本でもそれを手本にして自治体がエネルギー事業に関わるケースが増えています。最近では、そのような組織が連携して「日本シュタットベルケネットワーク」も設立されました。私はそのサポートもしています。日本で、ドイツのように自治体が主体のエネルギー事業が根付くには、いろいろな課題があって難しい面もあります。しかし、結果的に地域の課題解決に結び付けられるような取り組みになれば良いと考えています。

■省エネ改修のメリットをどう考える?
Q:クラブヴォーバンとは、どのように関わっているのでしょうか?

ドイツ在住の村上敦さん(クラブヴォーバン代表)の書籍を読んだことがきっかけで、同じようなビジョンを持って活動されていることを知り、協力しましょうという話になりました。今の所、私はクラブヴォーバンが主催する自治体会議などで、自分の研究を紹介しています。クラブヴォーバンでは省エネ住宅の普及を手がけていますが、自治体は公共施設の老朽化や空き家問題などで困っているので、省エネ建築を進めることがその解決に貢献できると思っています。ドイツでは、この省エネ改修の分野も進んだ取り組みがあるので、私としても紹介できればと思っています。

 

自治体で省エネ改修を行う際、単純にコスト計算しても回収するのは簡単ではありません。しかし、例えば温熱環境の悪いオフィスで働いていると、足が冷たくて頭が熱く、ぼーっとしてきます。断熱して温熱環境を整えることで、快適になって労働生産性も上がります。そのような間接的な経済効果は実はとても大きいのです。住宅にしても、オフィスにしても、省エネ改修する便益をコストだけで考えるのではなく、多面的な価値を総合的に検討するようになってほしいと思います。省エネ改修は、自治体のまちづくりにとって大きな効果を生み出すと感じます。


 ■「課題先進国」が生き残る道
Q: 少子高齢化などさまざまな課題が明らかになっている日本で、どのような対策をすべきでしょうか?

「課題先進国」と呼ばれるように、いまの日本が抱えている課題は、世界史的にも人類が抱えたことのない新しいタイプのものです。高齢化、少子化、過疎化…確かに深刻だけれど、対策によっては世界のモデルケースになれるかもしれません。もちろんそんなに簡単に解決できるものではありませんが、日本には課題を乗り越える技術も、能力も十分にあるはずです。私が問題だと感じているのは、日本人が正面からの議論を避ける傾向にあることです。未来は誰にもわからないのだから、議論を通じてベストを目指すような社会になれば、現実の課題を乗り越えられるでしょう。

 

特に地域の衰退という課題を解決するカギになるのは、大きなものへの依存ではなく、個々人や地域が主体性をもって自立しながら、いろいろなものと柔軟に連携して、地域を変えていくことができるかどうかです。私自身も、教育の現場を中心に実践していきたいと思っています。