第4回目となる自治体相互視察は、クラブヴォーバンの自治体正会員の埼玉県の横瀬町・小鹿野町を訪問しました。直前の台風19号の影響で、浸水や土砂災害などの被害もあり両町での開催が危ぶまれましたが、両町のご協力の下、下川町・ニセコ町・葛巻町・雫石町・北栄町の担当の方々やクラブヴォーバンの理事、コアメンバーなど、30人を超える参加となりました。
両町は、埼玉県という人口規模が大きく首都圏と直結する県域の中で、さいたまー熊谷―高崎ラインとは山で隔てられ、ポツンと隔離された地理的状況に置かれている秩父地域に位置します。その中でも中核の秩父市(人口6万人)との合併協議では、中心地への吸収をよしとせず、2004年に町民が自らの判断で独自の小規模でも輝ける地方自治体となることを選択したのが、横瀬町(8,500人)、小鹿野町(11,500人)です。他の日本の小規模自治体と同様に高齢化、人口減少の波は押し寄せていますが、新しい試みを興そうという機運は逆に高まっている地域でもあります。
1日目、“緑と風が奏でる こころ和むまち”を観光フレーズとする横瀬町の「道の駅果樹園あしがくぼ」で集合し、地元産のお蕎麦や紅茶ソフトクリームなどをいただき、横瀬町の富田町長より歓迎の挨拶を受けました。その後、今年度基本設計を実施し、改築する予定の横瀬小学校へ。今でも現役で1学年が使用しているという、昔のままの木枠の窓や扉が残り趣のある昭和8年築の木造校舎や、今後改築予定の昭和30・40年代に建てられた鉄筋コンクリート造の校舎などを視察し、改築のコンセプトについて伺いました。改築では、高断熱屋根や外断熱、Low-Eペアガラス等を施し、高効率機器や再エネの導入、内装に地元産木材を使い、環境に配慮した建築にしたいとのことでした。
次に、秩父圏域(秩父市・横瀬町・皆野町・長瀞町・小鹿野町)の一般廃棄物の可燃ごみを処理する施設「秩父クリーンセンター」を訪問。H9年に竣工され、H27年には熱エネルギーを有効利用するため、新たに出力1400kWの蒸気タービン発電設備を設置。この発電により、施設におけるすべての電力を供給し、余剰電力は秩父市が出資する地域新電力会社「秩父新電力株式会社」と東京電力に売電されています。施設の概要や、上記1市4町による「秩父広域市町村圏組合」の概要について説明を受けました。
秩父新電力株式会社と秩父広域市町村圏組合(埼玉県)は2018年11月、秩父地域内の再生可能エネルギーを活用した「エネルギーの地産地消」、資金循環等による「地域経済の活性化」の実現に向け、その取組内容を規定した「地域新電力事業に関する協定」を締結。組合を形成する1市4町の枠組みでは総務省が推進する「定住自立圏構想」にも取り組み、秩父広域市町村圏組合においては、ごみ処理や火葬場、福祉、水道などについて広域で事業を行っています。こうした枠組みの中で、電源調達から電力供給まで目指すのは全国初のケースとのことです。
また、2018年4月設立された「秩父新電力株式会社」の滝澤隆志氏より、“ちちぶ地域における持続可能なまちづくりに向けた挑戦~地域低炭素化と地方創生を実現する「新しい3セク」とは?~”と題し、①エネルギーの地産地消 ②地域経済の活性化 ③ちちぶ地域の課題解決、を理念とする同社の取組を伺いました。同社では、秩父クリーンセンターよりごみ焼却時に発電される電力を購入し、他に卒FITの太陽光発電なども合わせ、地域内に売電しています。「秩父新電力株式会社」の電気の供給先は、秩父市の公共施設や広域組合の公共施設が主であり、これらの施設ではCO2排出量を約22%削減見込みとのこと。これに先立ち、2017年に公共施設毎の電気使用量を見える化し、採算ラインで電力供給先を決めていったそうです。今後は、ちちぶ地域と関わりのある県外の自治体などとも連携して、事業を拡大する予定にしています。
その後は、小鹿野町の両神地区にある温泉宿泊施設「国民宿舎 両神荘」に移動。懇親会では、横瀬町の井上副町長より、2年ほど前より同町で取り組まれている、民間から事業を募集し自治体が支援する、横瀬町の官民連携プラットフォーム「よこらぼ」の取組についての報告や、数年前に始まり去年は1~2月の期間中で10万人を超える来場者でにぎわうようになった「あしがくぼの氷柱」イベントなどについての紹介がありました。この氷柱イベントのアイデアやノウハウは、元は小鹿野町のもので、横瀬町は小鹿野町からノウハウを教わったとのこと。近い地域で観光客を奪い合ったり競い合ったりするのではなく、古くからのお祭りなどもあり、昔から秩父地域では近隣の町同士で助け合い、盛り上げてきた長い歴史があるとの話がとても印象的でした。
2日目は、“花と歌舞伎と名水のまち”小鹿野町内の廃校休眠施設、旧三田川中学校(耐震工事済)を視察。現在はTVやCMなどの撮影で貸与する収入が少しあるものの、今後の活用方法をどうするか検討中で、スポーツ合宿施設として再生する案もあるとのことでした。町の中心地に近い場所で築約50年になる町営団地も隣接しており、町営住宅として、あるいは都内からの老人施設等の転用などのアイデアも参加者から出ましたが、「施設の再活用を検討する際の考え方として、まずはニーズを拾い上げ、“顧客”を確保してから、取り掛かることが、まず何より重要だ」との話が参加者から出ました。
次に、建て替え予定の小鹿野町庁舎を視察。今の庁舎の改修も考えたが、コンクリートの中性化などの問題もあり断念。ただし立地が良いため、現敷地内に新庁舎を新たに建築する予定で、環境に配慮した建築にしたいとのこと。夏暑く冬寒い地域のため、断熱や気密の考えも取り入れていきたいとのことで、今後、有識者による審査、プロポーザルという流れとなります。
庁舎内の会議室にて、小鹿野町の森町長のご挨拶をいただき、小鹿野町職員から小鹿野町の魅力が紹介されました。町民歌舞伎の伝統や、平成の名水百選にも選ばれた地域の名水“毘沙門水”、氷柱やロッククライミングやボルダリングの聖地としての新しい観光資源についての話がありました。
その後、(一社)地域政策デザインオフィス田中信一郎氏による職員研修「公共施設からはじめる“地域循環共生圏”づくり」について。冬に家の中がとても寒い日本において、「溺死」による死者が夏に少なく冬に多いこと、同じ傾向の心疾患や脳血管疾患も含め、冬季死亡増加率の地域間格差が、家の中が温かい北海道に置いて一番少なく、温暖であるはずの栃木や茨城ほか、みかんの産地の県で多いこと、などの説明がありました。その原因は、ヒートショックであり、家の「断熱・気密」の性能が低いこと。
まず公共施設から、高性能かつ安全で、床面積当たりの稼働率が高く、長寿命な建物にしていく必要があること、照明や空調や太陽光パネルなどの設備の耐用年数は数年から20年ほどものが多く、トータルコストとしては、「通常の断熱・気密+大規模の高効率設備」の建物ではなく、「高断熱・高気密+少規模の高効率設備」の方が安く快適であること、建物のエネルギー性能を高める優先原則は、『断熱>気密>日射コントロール>換気>通風>設備>再エネ熱>再エネ電気』の順であるべきことなどが説明されました。
参加したクラブヴォーバン会員自治体では、公共施設の統廃合や再活用について悩んでいる自治体の方が多く、引き続き公共施設の更新のあり方や考え方について、サポートを続けていきたいと思います。